2014/09/16

どうなるスコットランド(5)スコットランドの花

   誇り高きスコットランドの花

2007年2月11日の記事の抜粋です。これまでのおさらいでもあります。

スコットランドは政治的な「国」というレベルではイギリス(連合王国)の一部であり、独立国(independent country)ではありませんが、サッカーの試合開始前に歌われる国歌は決して連合王国の国歌である「God Save The Queen」ではありません。このことはサッカー好きの方ならよくご存じだと思います。

スコットランドは、ウェールズ、北アイルランドなどとともに、一つの国家(nation)として、独立したチームとそれに伴う国旗、国歌を有しています。
現在歌われているスコットランド国歌(unofficial national anthem)は「Flower Of Scotland(スコットランドの花)」と言い、1966年、フォークバンドのコリーズ(The Corries)のメンバーだったロイ・ウィリアムソン(Roy Williamson)によって作られました。(ロイはその後、病死しています。)

おお、スコットランドの花よ、我々はいつ再び君のような者に出会うだろう?・・・(中略)・・・誇り高きエドワード軍に対峙し、出直してこい!と追い返した君のような者に

13世紀のスコットランドはイングランドに支配され、イングランドと、それと手を組んだ地元の領主たちに完全に牛耳られていました。
それらに立ち向かったのが、伝説の英雄ウィリアム・ウォレス」で、1995年に彼を主人公にした映画「ブレーブハート」(メル・ギブソン監督 / 主演)が作られ、大ヒットし、アカデミー賞の5部門を受賞したことは前回書きました。

そのウィリアム・ウォレスが虐殺された後、スコットランドの王位についたロバート・ザ・ブルースは、14世紀に入った1314年、「バノックバーンの戦い」でイングランド王、エドワード2世の軍隊を撃破します。
Flower Of Scotland (ゲール語:Flùir na h-Alba」はこの時にみせたスコティシュの心意気を歌ったもので、明らかに「反イングランド」の思いが込められています。

スコットランドはいろいろな面でイングランドと異なります。
実際にスコットランドを訪れてみるとよくわかりますが、警官の制服、紙幣、学校の呼び方、etc.etc...
パブでは、日本で言えば流しのおじさんが奏でるアコーディオンに合わせ、みんなで肩を組んで「反英愛国歌」を歌ったりもします。

スコットランドでは独立の気運も強く、「スコットランド国民党(Scottish National Party~SNP)」も力を持っています。(現在はスコットランドの政権党です。)
スコットランドが独立するのがいいのかどうかはわかりませんし、そもそもそれはスコットランドの人たちが決めることでしょうが、スコットランドがイングランドと違うことは確かなようです。

コリーズのひとり、ロニー・ブラウン(Ronnie Browne)がサッカー、スコットランドナショナルチームのサポーターと歌うFlower of Scotlandです。
 
2009年10月10日、横浜国際競技場(日産スタジアム)でサッカー日本代表×スコットランド代表の試合があり、私はスコットランドサポーター席(ゴール裏)でスコットランドの人たちと一緒に "観戦?" しました。
スコットランドサポーターはタータン・アーミー(Tartan Army)と呼ばれます。
バグパイパー、タータンチェックのおじさん、ウィリアム・ウォレスのTシャツを着たお兄さんなど、各地から集まったタータン・アーミーの心意気を感じました。
ゴール裏にこだました「Flower of Scotland」がかなりスローテンポで、ピッチ上の歌手が歌い終わってもまだ続いていたというのはご愛嬌です。

スコットランド独立を問う国民投票が2日後に迫りました。
日本では(そして世界的にも)円がどうなるか、ポンド、ユーロ、ドルがどうなるか、株価がどうなるかなど経済面からだけ語られることの多いこの問題ですが、経済中心の考えから、歴史を振り返りつつ少し見方を変えるとより理解しやすいのにとも思います。

賛否拮抗する現状に焦る英国政府は王室さえも利用し、甘言を並べ、"賛成派" の切り崩しをはかろうとしています。英国政府が国際社会でも使ってきた常套手段です。
また、経済界は「本社をスコットランドからイングランドへ撤退するぞ。」と脅しをかけています。

部外者の私としてはエリザベス女王の言葉「Well, I hope people will think very carefully about the future.(人々が将来について慎重に考えることを望みます。)」をそのまま受け止め、スコットランドの人たちが「賢明な判断」をすることとを祈ります。

【ポイント】スコットランドは歴史、文化、制度などイングランド中心の英国とは異なっている。国民投票ではスコットランドが核兵器を廃し、北欧型の福祉国家を目指すのか、今またアメリカに追随し戦争の道をひた走ろうとする連合王国に埋没したままでよいのかが問われている。

私はスコットランドへは2回行き、それぞれ1週間ほど滞在したことはありますが、住んだことはありません。行った時の経験や記録、記憶、スコットランドやイングランドの友人たちとの議論、いくつかの "カルチャーセンター" での学びをもとに、BBCその他のテレビ・ラジオ番組や以下のような書籍を参考にして書きました。どれも専門書ではありませんので、素人にはわかり易いと思います。関心を持たれたら手にしてみてください。
1.Fry PS: History of the world, Dorling Kindersley, London, 2007
オーソドックスな世界史のテキストで、日本の歴史教科書、参考書と比べてもわかりやすく、日本の教育で偏りがちな日本、中国、ヨーロッパ、アメリカだけでなく、アフリカ、東南アジア、西南アジア、オセアニアを含め幅広く歴史を俯瞰できます。深みはそれほどありませんが、イラストも豊富で読みやすい本です。

2.Steel T: Scotland's story: a new perspective, Collins, London, 1984
英国の民間テレビITV(チャンネル4)で1984年に放送されたシリーズ番組のテキスト版です。インデックスを含め358ページのハードバックで、もちろん放送内容よりずっと詳細で、図版も豊富です。私が最も参考にした書籍です。いささか古い本ですが、今でも十分に参考になります。スコットランドの人たちにさえ改めて読んでいただきたい内容です。絶版ですがアマゾン等で買えそうです。ペーパーバックもあるようです。

3.フランク・レンウィック(小林章夫 訳):とびきり哀しいスコットランド史,筑摩書房,東京,2004
「Renwick F: Scotland bloody Scotland」の訳本で、ちくま文庫の一冊です。独特の歴史観で時に笑いながら読むことのできる、しかししっかりした内容の優れた文庫本です。

4.佐藤猛郎,岩田託子,富田理恵:図説スコットランド,河出書房新社,東京,2005
「ふくろうの本」シリーズの一冊です。スコットランドの観光、地理から始まり、歴史に及び、カラー写真もたくさんある、特にスコットランドに最初に取り掛かるにはよい本です。

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